カートをみる マイページへログイン ご利用案内 お問い合せ サイトマップ
RSS

 

風に吹かれて

風に吹かれて

毎月発行のフリーペーパー「KAWABE JEWELRY通信」に不定期掲載の店主コラムです。

ジュエリーに関することや日々思うことを、店主・川辺 誠がつづります。

タイトルは学生時代に好きだったボブ・ディランの名曲「Blowin’in the wind」から。

2013年10月

時々、真珠のネックレスをお探しの方から「花珠鑑別書はついていますか?」というご質問をお受けします。
結論から申し上げると、当店では花珠鑑別書はお付けしていません。この「花珠」という言葉に、どうしても違和感をぬぐえないからです。

私の両親が真珠養殖をしていた頃、「花珠」というのは、年間ほんの数パーセントとれるかとれないかの特級品に対する、養殖の現場での呼び名でした。
いつの頃からか世にあらわれた真珠の鑑別書に、この「花珠」という言葉が使われることを知ったときには、正直なところ驚きました。

いくつかの機関がこの鑑別書を発行しているようですが、その基準は本来の「花珠」とはかけ離れたもので、しかも機関ごとにまちまちです。
何よりも、この花珠鑑別書のついた真珠のネックレスを、いかにも特級品であるかのようにお客様に勘違いさせるようなセールス方法を目の当たりにすると、悲しくなります。

KAWABE JEWELRYで真珠のネックレスを仕上げるときに重視するのは、巻きの厚みから生まれる光沢の美しさとはもちろんのこと、50個ほどの真珠が連なることにより生まれる調和としての美しさです。
何度も並べ替えてはながめることを繰り返し、その調和による美しさを実感できたとき、初めて一本のネックレスが完成するのです。

そうして完成したネックレスを、お客様のお好みの色目や大きさ、ご予算をお伺いしてご提案させていただいています。

四季を持つ日本の寒暖の激しい海から生まれる美しいアコヤ真珠。
何かに惑わされることなく、それを身に着ける喜びを多くの方に知っていただきたいと心から願っています。

風に吹かれて

(KAWABE JEWELRY通信Vol.129 2013/10発行に掲載分)

2012年1月

お店で毎月購読している雑誌「暮しの手帖」の編集長松浦弥太郎さんの随筆集に「くちぶえサンドイッチ」という本があります。
この本は内容もすてきでぜひおすすめしたいのですが、なんといっても秀逸なのがこのタイトルです。
「くちぶえ」と「サンドイッチ」というふたつの常日頃なにげなく使っている言葉をただつなげるだけで、こんなにもイメージが膨らむんだということを教えられました。

たとえば、私には、「軽やかに大きく手を振りながら、大好きな場所に出かけていって、幸せにサンドイッチをほおばるワクワク感」が一瞬にして伝わってきます。ふたつの言葉のつながりが、とてもすてきな世界をつくり出すのですね。

そこで、店のスタッフと一緒にKAWABE JEWELRYをふたつの言葉で表現すれば、どんな言葉になるだろうと語り合ってみました。ワイワイと楽しく、たくさんの言葉がスタッフそれぞれに出てきたのですが、その中で私が一番好きになった言葉は「虹色スキップ」という言葉です。

私自身、面白いデザインやすてきなアイデアを思いついて、オリジナルジュエリーを完成させたときの踊りだしたいくらい嬉しい気持ちは、まさに「虹色スキップ」ですし、そして、そのジュエリーを身に着けていただく方が、少しでも、笑顔になったり、ほっとしたり、元気付けられたりして「虹色スキップ」になってもらえたら、そんなお店づくりができたら、なんと幸せな事なのだろうと思うのです。

この号で、このKAWABE JEWELRY通信は10周年を迎えました。2002年の1月に第一号を発行して以来、本当に毎号毎号読んでいただいてありがとうございます。
お店も新装され、この厳しい時代だからこそ、私たちは新しい時代のジュエリーショップを目指して進んで参ります。
今年もどうぞ変わらぬご声援をよろしくお願いします。
合言葉は「虹色スキップ」です。

風に吹かれて

(KAWABE JEWELRY通信Vol.115 2012/1発行に掲載分)

2011年4月

3/3-6の間、香港で開催されたインターナショナルジュエリーショーに、久しぶりに、仕入れに行ってきました。
近年の経済的低迷に、世界のジュエラーたちはどんどん日本から遠ざかり、国内で開催される様々な仕入れ会は、旧態依然とした大量生産の同じようなジュエリーが並んでいるという印象が、年々強くなっていると感じているからです。

香港ジュエリーショーには、五日間の期間中、中国はもちろん、北米南米、ヨーロッパ各国、アフリカ、中東等、約50の国や地域から、3000社が出展し、35000人のバイヤーが来場します。

とにかく、世界はとてもパワフルで刺激的です。一個数百円のルースから、数千万円するダイヤのネックレスまで、あらゆるものがとんでもない量で集まっています。
私のような一店舗の小売店のオーナーから、数百店舗を展開するチェーンストアのバイヤー、あるいはアラブの大富豪を顧客とする欧米の老舗など、それぞれが、それぞれの立場で交渉を繰り広げています。

このような、まさにインターナショナルな環境の中に身を置くと、普段日本では見失いがちな、国際的な商材としてのジュエリーの側面を強く感じることができます。
美しいものを美しいと思う感覚や、人と人をつなぐことのできるジュエリーの可能性は世界共通。また、その中で、自分が感動できるルース、ジュエリーとの出会いがあることが、とにかく楽しく嬉しくなります。

もちろん、自分の力量の範囲内でしか仕入れることはできませんが、このような気持ちで仕入れることができた品々を、日本の当店で出会う方々のもとに届けられるしあわせを改めて感じました。アフリカから、スリランカから、連れてきた宝石たちに会いに、ぜひご来店ください。

風に吹かれて

(KAWABE JEWELRY通信Vol.106 2011/4発行に掲載分)

2010年5月

ビルの建替えにあたり、どうなることかと思っていましたが、新しいビルになっても一階の同じ場所に店をつくれることになり、ほっとしているところです。
でも、今のこの店で営業できるのは、6月末までで、あと一ヶ月あまりかと思うと、寂しい気持ちが込み上げてくるのを抑えることはできません。

この場所は、実は16年前、テナント貸し出し用ではなく、当時のビルのオーナーであった日産火災が、グループ会社の日産自動車の展示スペースとして使用していました。ビルの玄関ロビーからつづいたこのスペースに、いつも車が一台ぽんと展示してあったのです。

「こんなところに店をもてたら・・・。」と、駄目でもともとでこの場所をテナントとして貸して欲しいと、日産火災の総務に直接かけあったところ思いがけず話が進み、まるで奇跡のようにこの店は実現したのです。

当時の日産火災はとてもあたたかく、私の申し出を門前払いするどころか、ロビーとの間に当時はなかった仕切りとドアを、正面にもドアをつけ、この場所を私に貸すために工事をしてくれたのでした。

それからは試行錯誤の連続。
どうすればもっとお客様に喜んでいただけるかと考え、オリジナルジュエリーを手がけるようになり、この通信もまもなく100号。
16年たち、この店はしっかりと「私たちの店」となってくれたと思います。
狭いながらもジュエリーを通じて、お客様と私たちの人生の交わる場所としての役目を果たしてくれたと思います。

実は最終営業日はまだ決めていません。
でもその日の閉店後には、この店への感謝の想いを込めて、初めてこの場所で酒でも飲もうかと思っています。


(KAWABE JEWELRY通信Vol.96 2010/5発行に掲載分)

2009年11月

休日の気分転換は料理です。

ジュエリーづくりは、なかなか時間のかかるものです。完成まで、数週間はかかります。
また、その間には、鋳造業者や、石留職人など様々な人が関わります。
「ものをつくる」という点では、料理も同じですが、料理は最初から最後まで自分の手でできますし、なによりも結果が早い。
食べたときの家族の顔で、評価も一目瞭然。そういうところに、ジュエリーづくりとは違う楽しさがあります。

よく作るのはイタリアンです。
ふるさとの大分の漁村から、ときどき旬の魚介類を送ってくれるので、パスタやグリルにします。
欠かせないのが、オリーブオイルですが、西院に評判のオリーブオイルとバルサミコ酢の専門店があると聞き、でかけてみました。

町屋を改装した小さな店。
一歩足を踏み入れると、2年ほど前に脱サラしたという、自称「オリーブオイルおたく」のご主人が、こだわってセレクトした様々なオリーブオイルとバルサミコ酢が、センスよくディスプレーされています。

この店の特徴は、オリーブオイルのテイスティングができること。小さく切ったバゲットが用意してあり、それをひたして試食できるのです。
一口にオリーブオイルといっても、こんなに風味の違いがあるのかと、びっくり。ひとつひとつ丁寧に解説して下さり、それにうんうんとうなずきながら、結局片っ端から全部試食。
そして気に入った一本を買いました。それはそれは楽しい時間でした。

この景気ですから、何を買うにも、お手軽な大量生産・低価格のものに手が伸びてしまいがち。
でも、この店には、心からその品物を愛している人から買えることのしあわせがあります。ぜひ足を運んでみてください。


オリーブオイル&バルサミコ酢専門店「トレチプレッシィ」 Tel 075-821-3561
営業時間11:00〜19:30(日・祝は19:00まで) 月曜定休
京都市中京区壬生仙念町11(阪急京都線 西院駅から四条通を東へ3分)
http://tre-cipressi.com/


(KAWABE JEWELRY通信Vol.90 2009/11発行に掲載分)

2009年10月

数年前に当店でマリッジリングをおつくりいただいたご夫婦が、赤ちゃんを連れて、ひさしぶりにご来店くださいました。
赤ちゃんをだっこするその表情は、すっかり「おかあさん」になった喜びにあふれていて、まぶしいようでした。

マリッジリングの裏のお二人のイニシャルのとなりに、赤ちゃんのお名前の刻印をして欲しいというご注文。
きっと、その赤ちゃんが大きくなって、その刻印を見るとき、両親に愛されていることを実感して、とてもうれしく思われることでしょう。
円満なご家族の様子に、私もしあわせのおすそわけをいただいたように感じました。

この仕事をしていると、たくさんの「しあわせ」な人たちに出会えます。
結婚一周年を迎えて、マリッジリングに、記念に一粒のメレダイヤを埋め込んで欲しいというご夫婦や、お嬢様のご結婚がきまって、お嫁入り道具のパールのネックレスとピアスをお買い上げいただいたお母様・・・。皆さん全身からしあわせのオーラを発しておられます。

よく、「KAWABE JEWELRYのジュエリーを着けると元気が出るわ。」とお客様にいっていただくことがありますが、実はこちらのほうが、そんなお客様の「しあわせパワー」をいただいて、力にさせていただいているのです。
本当にありがたいと思います。

ブライダルシーズン到来、この秋も何組かのブライダルリングを手がけさせていただいています。
それぞれのカップルのしあわせいっぱいの顔を思い浮かべて、心を込めて制作しています。

風に吹かれて



(KAWABE JEWELRY通信Vol.89 2009/10発行に掲載分)

2008年6月

宝石には、それぞれ、理想とされる色や形があります。ただ、世間で評価の高いものと、ご自分が好きだと思うものとの間には、差があって当然です。
例えば、ルビーですと、鳩の血にたとえられる、ダークレッドが最高級とされますが、もっと色味が浅くても、きらきらとテリがよく、さわやかな感じのするものが好きだと感じる方もいらっしゃいます。真珠の、一般的には評価を下げてしまうへこみも、テリや形など全体の雰囲気がいいと、かわいい子供のえくぼのようで、愛おしく思えることもあります。

人間の場合でも、経歴や成績ばかりを気にしていては、その人物は分かりませんよね。
実際に付き合ってみて、笑顔が素敵だったり、ユーモアがあったり、その人のかもし出す独特の魅力はわかるものです。
それは自然の生み出した宝石でも同じ。
そして、どんな人に惹かれるかが、それぞれ違うように、どんな石に魅力を感じるかというのも、それぞれ違うものです。

鑑定書に表示されているグレードや、一般の評価を気にしすぎるより、ぜひ、ご自分の「これが好き!」という気持ちを大事になさって下さい。

TVショッピングやインターネットなどでも宝石を買うことの出来る昨今ですが、実際に石を見ることはとても大切です。その石固有の魅力や、身につけたときのわくわくする気持ちは、手にとってみないことには、わかるものではないと思います。

そうして多くの石と会話していると、必ず、あなたの心に強く呼びかけてくる石があるはずです。
それは、世界にただひとつのしあわせな出会いなのです。

(KAWABE JEWELRY通信Vol.74 2008/6発行に掲載分)

2008年1月

昨年末、宝石の大好きなお客様より、「キンショウ石って知ってる?手に入れること出来る?」と声をかけていただきました。
お話を伺うと、お仕事で扱われる資料の中に、古代バイキングが、航海のとき、曇りの日でも、船の進路を決めるために、太陽の位置を確認する道具として、この「キンショウ石」をつかっていた、と書かれていたので興味がわいたとのこと。

「キンショウ石」というのは、アイオライトという宝石で、和名で菫青石と書きます。アイオライト自体があまり知られていない宝石である上に、その和名をご存知の方はほとんどいらっしゃらないのでは、と思います。
アイオライトは、その結晶系の特性から、石を見る方向で違う色を示すのが特徴で、上から見るとブルーサファイアに似た濃青色なのに、90度角度を変えてサイドから見ると透き通った淡い青色を、また別の角度からはグレーがかった黄色をあらわします。古代バイキングは、経験的にこのアイオライトの光学的な特徴を理解していて、太陽の位置を確認する道具として使っていたのでしょう。

早速取り寄せたアイオライトを前に、お客様と一緒に古代バイキングの航海に思いを馳せ、イヤリングを仕立てることになりました。

私たちの今の暮らしの中でも、この石が指し示す「太陽」のありかをしっかりと確認し、見失いさえしなければ、現代のバイキングとなって、かえって楽しく、荒海をもたくましく乗り切っていけそうです。

さあ、2008年の航海の始まりです。

風に吹かれて6 

(KAWABE JEWELRY通信Vol.69 2008/1発行に掲載分)


2007年11月

ジュエリーリフォームのご相談が増えています。何かのご縁で、今自分の手元にあるジュエリーを、好きなデザインにリフォームして、また新たな気持ちで使い続けることは、とても素敵なことだと思います。

時折リフォームの相談の際、「なんだ、新しいのを買った方が安いじゃないの。」ということをおっしゃる方がいらっしゃいます。お客様にしてみれば、石も地金もあるのだから、もっと安くできるはずと思われても仕方ないのかもしれませんね。確かに、巷にあふれる大量生産のジュエリーに比べたら、高く感じられることでしょう。

リフォームするということは、「ひとつの宝石に向かい合う」ことです。その石の魅力を最も引き出せるようにデザインを起こし、職人が手を動かします。もちろん、ご負担の少なくなるよう、努力や工夫はしていますが、生産効率からいえば高くなるのは必然といえます。

ただ、もったいないからという理由だけで、リフォームをすることはおすすめできません。
大切な思い出が詰まっているとか、その石がとても気に入っているとか、そのジュエリーに対する想いがあってこそ、リフォームは成功します。

あなたの「大切な」ジュエリーを、さらに「大好きな」ものに変えるリフォームができればいいなと思います。

風に吹かれて5


(KAWABE JEWELRY通信Vol.67 2007/11発行に掲載分)

2007年3月

先日、オリジナルジュエリーをお求めいただいた方から、お葉書をいただきました。
それには、かわいいイラストとともに「すてきな宝石に巡り会えて、懐かしい旧友に会ったような嬉しい気持ちになりました。」という一文が添えられてありました。

私たちの創ったジュエリーを「懐かしい旧友」と表現していただいたことが、何よりもありがたく、勇気付けられ、何度も読み返させていただきました。そして、同時にその言葉は、ちょっとした驚きでもありました。

というのは、私自身も、デザインを考えるとき、その素材である宝石を触ったり、眺めたりしながら、初めて出会うそれに対して「懐かしい」という気持ちを感じることが度々あるからです。この気持ちは、説明しにくい、ある種不思議な感覚なのですが、それは制作を進める上で、とても大切にしているものです。

「懐かしい旧友」という言葉で、お客様とひとつの素敵な感性を共有できたようで、嬉しくなりました。私たち人間とは比べ物にならない程の時間のなかから、生まれて来たものたちの持つ力なのでしょうね。

さて、6年ぶりにショップの目印にもなっているひさしのテントを新調しました。今度の色はやや赤みのあるブラウンです。周りの風景に溶け込んで、自然な感じで、当店をアピールしてくれています。とても素敵な出会いがたくさん生まれる目印になってくれればいいと思います。

風に吹かれて4


(KAWABE JEWELRY通信Vol.60 2007/3発行に掲載分)

2006年10月

黒蝶真珠を、東京の仕入れ会で、39ピースのロットで入手しました。ロットで仕入れた時は、まずひとつひとつチェックをしながら、一枚のシートの上に並べてみます。どれもみな、自然から生まれたものが持つ、特有の生命力で輝いていて、少しゆがんでいたり、独特のくせがあったり。それはとても楽しみな作業の一つです。

39ピースがお行儀よく並んだ様子は、まるで学校の教室に並んだクラスメイトのよう。私は担任の先生になった気分で、はるか遠い南のタヒチの海で育った39ピースが、今、目の前に集まっている不思議を思いながら、同じ色目のものを集めたり、同じような形をペアにしたりしながら、一粒一粒を観察しています。

当店のジュエリー作りは、いつもそんなふうに素材と語り合うことから始まります。それぞれの素材の持つ雰囲気を十分に感じて、それを生かしたデザインへと、つなげて行きたいのです。
たとえそれがチェーンをつけるためのパーツをひとつつけるだけの、シンプルな仕様であったとしても、素材の長所や個性をうまく引き出せたときには、それは思っていた以上に豊かな表情を見せてくれます。

その一瞬がとにかくうれしく、思わず早く誰かに見てもらいたくなります。
39ピースの仲間のうち第一弾の卒業生はペンダントやリングになりました、現在残り25ピースほどは、いっぱいの可能性を秘めて、シートの上で出番を待っています。

風に吹かれて3

(KAWABE JEWELRY通信Vol.56 2006/10発行に掲載分)

2006年6月

前回のこのコーナーで、真珠養殖を家業としていた、私の子供の頃の話を書いたところ、多くの方からいろいろな感想をいただきました。ありがとうございます。当たり前のことですが、誰にとっても、子供の頃の大切な思い出は、今を生きるうえで大きな支えになっていると、あらためて感じました。

そんなお客様との会話の中で、今まですっかり忘れていたのに、急に思い出したことがありました。

それは、小学校5,6年生の頃の、裏山に「メジロ捕り」に行ったときの思い出です。
おとりのメジロを入れた鳥かごを木の枝にかけ、その近くに「とりもち」を巻いた細長い枝をしかけて、おとりにつられてやってきた野生のメジロが、とりもちにかかるのを、ひたすら待つという、非常に単純で原始的な仕掛けです。思い出したことというのは、メジロ捕りの行為そのものではなく、メジロを待って、草むらに身を隠してじっと息を殺していたときの感覚です。かくれんぼの感覚に似ているかもしれません。

最初は集中して、仕掛けのほうを凝視しているのですが、やがて飽きてくると、風が木々を通り抜ける音や、木の葉がぱたぱたとひるがえる音、遠くの波の音がやたらと聞こえてくるようになるのです。
そして、そんな自然の音に包まれていながらも、不思議と「静寂」を感じるとき、この世にまるで自分一人きりのような、自分もまるでその森の一部になったような感覚におそわれ、ほんの短い時間それに身をゆだねます。

私は、ジュエリーのデザインを考えるとき、素材である宝石と対話することがとても大切だと思っています。「このデザインでいいかな」と宝石に問いかけたとき、静かに耳を澄まして、その返事を聞いているのは、そんな私の中の子供の心なのかもしれません。

(KAWABE JEWELRY通信Vol.52 2006/6発行に掲載分

2006年2月

十数年ぶりにアコヤ貝の貝柱をいただきました。
真珠養殖をしている故郷の知人から送られてきたのです。毎年この時期に、「浜揚げ」といって、養殖業者は、アコヤ貝から真珠を採集するのですが、その時、貝柱は捨てずに集められ、食用とされるのです。
味は甘みが強く、香ばしくおいしいのですが、そんなにたくさん採れるものではないので、その現場にいる人たちだけが知る味です。私や母にとっては、何よりも「懐かしい味」で、昭和40年頃の真珠養殖を家業としていた子供の頃を思い出さずにはおれません。

真珠養殖業者にとっては、年間を通じてこの浜揚げによって採集される真珠だけが、唯一の収入源ですので、浜揚げには収穫の喜びとともに緊張感が張り詰めます。何しろ、貝をあけて中の真珠を取り出してみるまでは、どれくらいの品質のものが出てくるかわからないのですから。

寒い時期ですから、ドラム缶にがんがん火を燃やして、そこに集まってくる大人たちの会話に、子供ながら必死に聞き耳を立てていたのをおぼえています。
「今年の川辺真珠は成績がいいなあ。」というような声が聞こえたら、ホッとして胸をなでおろします。そして、そんな小さな心の動きをまわりに気づかれないように、火に立てかけておいた貝柱の串焼きをほおばりながら、大人たちの会話の後を追いかけるのです。子供なりに家業への思いは深いものがありました。

私は今でも真珠を見るときには、無意識に、真珠養殖をしていた故郷ですごした子供の頃の、潮の香りや波の音、早朝の透き通った海の輝きや、海の上を吹く風の懐かしさなどを同時に感じているのだと思います。
そんなことが今の仕事の原点になっていますし、これからも大切にしていきたいと思います。
お店の真珠のコーナーに真珠養殖のいかだで遊んだ頃の懐かしい小さな写真をおいてみました。
よろしかったらご来店の際、ごらん下さい。

風に吹かれて1 

(KAWABE JEWELRY通信Vol.49 2006/2発行に掲載分)

ページトップへ